コンポンチャム州旅行記

いつか見た映画のような旅 ~モンドルキリの自然、古き伝統、時代の流れと共生する森人を訪ねる~(by クロマーさん)

コンポンチャム州
いつか見た映画のような旅
モンドルキリの自然、古き伝統、時代の流れと共生する森人を訪ねる

 モンドルキリ(山と出会うの意)。カンボジア東部に位置し、ベトナムと国境を有した広大な高原地帯である。ベトナム戦争時代には通称ホーチミンルートと呼ばれる軍事補給線があったことにより、米軍による度重なる爆撃が行われた。首都プノンペンからは10時間ほど、シェムリアップからだと12時間ほどで辿り着けるが、未だ赤土がむき出しとなっている幹線道路のため、雨季は陸の孤島となることも多い。州全体の人口はたったの4万人ほど。内80%がプノン族をはじめとした少数民族であるという。

第1日目 午前 メモット(コンポンチャム州)
チャム族が多く住むコンポンチャム(チャム人の港の意)。かつてメコン貿易の要所として活気のあった町であるが、日本支援により架けられたキズナ橋の誕生により、河を隔てた東西の貿易は激減した。どことなく寂れた感を持つ町を横目に橋を渡ると、竹製の大きな漁船が、茶色く濁った水に網をかまえている。雨季の増水により低地の田畑に流れ込んできた魚を狙っているのだろう。遠くから見るとたくさんのカマキリが獲物を狙ってカマをそろえているように見える。
 国道7号線を東へ、東へと進んでいくと、道路脇には大量の屑木が積み重ねられている。昨今までの不動産ブーム、建築ラッシュにより、地元のレンガ会社が焼レンガに使用する屑木を大量購入に来ていたそうだ。人々が浮かれていた土地バブルも終息に向かい、めっきり需要が減ってしまったようである。どこから運んでくるのだろう、ぼろぼろの原付バイクに載せられるだけ載せた丸太が、車幅いっぱいに横積みされて向かってくる。100kmほど離れた村から切り出して、町の木材問屋に運んでいるのだそうだ。
 
第1日目 午後 メモット(コンポンチャム州)
日本企業も進出してきているのだろう、日本語で書かれたゴム農園の看板を過ぎると、少し大きな町メモットへとたどり着いた。この町には小さな博物館があり、この地に紀元前一千年ほど前にあったという円形集落の調査記録が残されているのである。ずっと前から訪れてみたかったのであるが、不定期開館のため、いつもハズレを引いていたのだ。
到着した赤い館にはいつも通りしっかりとした錠が施されていた。ふと横を見ると電話番号が記載された小さな掛札がある。試しに掛けてみると3分とかからずバイクに乗って館長がやってきた。
館長と共に真っ暗な館内に入り込み、バタバタと窓とドアを開くと、さわやかな日差しとともに乾燥した風が流れ込む。
 小さな館内には円形集落の模型があり、当時の埋葬の様子、また近隣の村より発掘された陶器や、後の時代であるクメール王朝時の猪の彫像なども展示されていた。町の周辺には大小様々な30余りの円形集落があったようだ。
 一番近くのものは2km先だ。館長のその一言で、次の目的地は決まった。屋台で遅い昼食をとり、小さな畦道を走ると、陽気な女性達とすれ違った。山岳民族がよく使っている背負い篭を肩からさげ、頭には大きな篭を載せて荷物を運んでいる。スティアン族だと言う彼女達は、クメール族と較べると少しだけさっぱり顔だ。
 コーヒー豆を天日干ししているおじさんに声をかけ、円形集落のマウント部へと案内してもらう。とうの昔に集落として機能しなくなったこの地には、もはや人々は住んでおらず、オレンジやコーヒー豆の農園となっていた。

第2日目 午前 メモット(コンポンチャム州)~センモノロム(モンドルキリ州)
 朝早くから小さな食堂で朝食をとる。食堂に集まる人々の顔は、見慣れているクメール族とはどことなく違い、一重まぶたの者も多い。食堂内インテリアに目をやるとカンボジアとベトナムの食堂が融合した風に感じる。すぐそばではインテリアの一部のように、座っているお爺さんが、猫をなでている。
 モンドルキリの州都センモノロムまではここから2、3時間で到着する。もっとも乾期で道路状況がいい場合という条件付きではあるのだが。晴れとも曇りとも言い難い天候の中、スピードを加速させる。スヌオルという小さな町を越すと7号線から67号線へと切り替わり赤土の道路となる。森が切り拓かれ、造られた道路では中国から運ばれて来た大型重機が真っ赤な土を運び込み、ローラー車で整地している。目的地のセンモノロムまではもう少しだ。人気のない小さな村と森を抜けると透き通った空気が広がり、見渡しのいい高原へと辿り着いた。将来は高原リゾートとして立派な避暑地となることだろう。
 思ったより早く到着した町を、ぐるりと一周する。野牛の像が二頭、デンと佇んでいる。荷篭を背負った人々は森から採ってきた新鮮な果実や野菜を道端で売っている。密集という言葉からはほど遠い町だ。
 適当に見つけた宿に荷物を降ろし、市場前で客待ちするバイクタクシーに声をかける。英語は全く通じないので、クメール語での通訳兼案内を頼む。カンボジア北部ラタナキリのプノン族は、英語はもちろんクメール語ができない者が多かったからだ。
まずはプールン村へと向かう。前日に雨が降ったのだろうか、滑りやすい赤土の道路を低速で進むと、特徴のあるプノン族、通称森人と呼ばれる民族の家屋が見えてきた。のんべりと広い楕円型。外枠は竹で編みこまれ、かやぶき屋根で覆われている。時代の流れだろう、その脇にはカンボジアで一般的に普及している木製家屋が建っている。ふと見ると、のそのそと大きな象が歩いて来た。ちょうど森仕事から帰ってきたようで、大きな背中の上には葉煙草をくわえた象使いと大きな竹が載っていた。
一休みしている象使いに声をかける。プノン族ではあるが、クメール語も普通に話せるようだ。森の中に入ると小さな滝があると言うので、象に乗せてもらうことにした。外国人向けエレファントトレッキングが盛んなのだろう、家の中から乗客用座席を持ち出し、象の背中へとくくりつける。
森へと続く細道を進む。ドスン、ドスン、ドスン。一定のリズムを刻む足音が心地よい。小さな川を越し、アップダウンする山道をゆっくりと進む。違法伐採が行われているのだろう、山道には切り倒された大木があり、すぐそばには大型トラックと思しきタイヤ痕が残っていた。
竹林にさしかかると、沢音が聞こえ始めた。どうも目的地に到着したようだ。象使いは象を近くの木に寄せる。下り用梯子は準備されてなく大きな幹にしがみついてズリズリと滑り降りる。座席が取り外されると象と象使いの休憩時間だ。いつものことなのだろう、象はうれしそうに近くの竹林へと向かい、長い鼻を器用に使っておやつの竹を口へと運んでいく。しばらくおやつを楽しんだ後は入浴タイムだ。象使いを背に乗せ、沢の深みへと入っていく。象使いは持ってきた石鹸で自分を洗い、続いて象の体を泡立てている。目元まで浸かった象は、長い鼻から水を吹き出し、ブォホホーと気持ち良さそうに鳴いた。

第2日目 午後 センモノロム(モンドルキリ州)
 プールン村から北東に30kmほど向かうとブースラーの滝へと到着する。以前来た時と較べると道路状況は格段に良くなってはいたが、まだまだ大変な道路であることに変わりはない。
 やっと辿り着いた滝の入り口には森人達が屋台を開き、森で採れたばかりのバナナやアボカド、芋などを並べている。プノンペンから来たカンボジア人観光客が、こぞってそれらを買い求めている。旅先のご当地フルーツを、実家への土産として買って帰るのが、カンボジアの一種の文化であるためだ。
 雨期明けの二段滝は増水しており、迫力もぐっと増す。乾期であれば一段目と二段目の間のテラスを渡り、水浴びを楽しむ地元民も多いが、流れの強いこの時期はそうもいかず、思い思いのポーズで写真撮影を楽しんでいた。近くの岩場に腰をかけ、滝を望んでいると、森人がバナナを売りにきた。いらないというと、房から二本もぎ取り、僕の手に握らせ帰って行った。
 案内人に礼を告げ、荷物を預け置いた宿へと戻る。急いでシャワーを浴び、懐中電灯とカメラをバッグに詰めこみ、近くの商店で水とお菓子を大量に買い込む。突発的といった表現が正しいのだろう。ここに来る前に知り合った日本人がプノン族の伝統的家屋に泊まったという話を思い出したからだ。今まで一度も行ったこともないプータン村ではあるが、行けばどうにかなるだろう。もし断られたら、ただ戻ってくればいいだけなのだ。
ほとんど沈み落ちた太陽に心が焦りつつ、バイクを走らせる。途中、ライトに照らし出された伝統家屋に気付き、エンジンを停める。どうやらこの辺がプータン村のようだ。もう完全に日は落ちている。電気は通っておらず、光も音もない空間。見知らぬ人間に、吠えかける犬の声、時々発せられる牛の鳴き声がどこか遠くからきこえてくる。持ってきた懐中電灯を頼りに真っ暗な道路を歩いていると、近くに座っていた老婆の存在に気がついた。声をかけ、一夜の宿を頼んでみる。うん、うんと首を縦にふり、ついて来いという仕草をする。連れられて入った家屋の中は外から見た感じよりもずっと広く、人々は屋内の焚火で暖をとっている。家長であるお爺さんに挨拶すると、家族紹介が始まった。一棟に三世帯10名で同居しており、他に子豚二頭、犬二匹が一緒に住んでいるという。家族一同、突然の珍客に戸惑っている様子もなく、臆しもせずクメール語で話しかけてくる。さっき買ったばかりのお菓子をみんなに配る。あまり食べる機会もないのだろう、チョコレートが大人気のようで、みんなの顔がほころんでいる。
夕食時だったのか、まだ温かい白いご飯と、竹筒に入ったかぼちゃ料理が目の前に並べられた。ほんの少し辛いカボチャ料理を食べ終わる頃、大きな甕に入った酒がどこからともなく運び込まれた。宴の準備が完了したようだ。いつの間にか集まってきた、珍客目当ての見物人で家はいっぱいとなっていた。皆で酒をあおりながら、ある者は笛を吹き、ある者は歌っている。土佐の返杯のように、飲み干したグラスを次の者へと渡し渡し飲みつなぎ、夜は更けていった。

第3日目 午前 センモノロム(モンドルキリ州)
 焚かれていた薪も炭となりくすぶり始めている。標高700メートルを超す高原の朝は肌寒く、外が明るくなる前から森人達は行動を開始する。彼らより少しだけ朝寝坊をして、外に出ると、村にいるはずの象もすでに森仕事に向かったという。
 200メートルほどの小さな一本道に、ポツリポツリと伝統的家屋が並んでおり、それぞれの家屋からは、かやをすり抜けた煙が上がっている。近くの民家では餅つきの要領で山の米が精米されており、臼から飛び出たお米を狙って鶏が集まっている。
 近くを歩いている老夫婦が微笑みかけてきた。衣類こそ最近のものではあるが、男性の耳に開けられた大きな穴には木製ピアスが詰め込まれ、首元には色とりどりのビーズで作られた首飾りが纏われている。女性は葉煙草をくわえ、ときおり煙を吐き出している。昔から伝わる森人の文化・伝統は、新しいそれらと融合しつつ、次の世代へと継承されていくのだろう。
 家長に別れを告げ、センモノロムの町を見下ろせる丘へと向かう。到着した丘にはこの町を守っているネアックター(土地神)が祀られ、正面に広がる大地とそこに住む人々を見守っていた。

【旅行時期】2008/11/25~2008/11/27
【エリア】カンボジア
【テーマ】大自然・動物
【投稿者】クロマー

コンポンチャム州とは?

name コンポンチャム
khmer កំពង់ចាម
area 9,799
population 1,608,914
population_as_of 1998
density 164.2
isocode KH-3
capital コンポンチャム (市) コンポンチャム
mapimage Cambodia-Kampong Cham.png
コンポンチャムはカンボジア東部の州である。州都はコンポンチャム。
コンポンチャム州は16区に分かれる。
0301 Batheay
0302 Chamkar Leu
0303 Cheung Prey
0304 Dambae
0305 コンポンチャム
0306 Kampong Siem
0307 Kang Meas

コンポンチャム州の詳細